鈴木朖 人と学問
著者 杉浦豊治
離屋學訓刊行百五十周年記念
昭和54年4月29日鈔了
昭和54年6月1日印刷
昭和54年6月6日發行
發行者 鈴木朖學會
本書は、一として「離屋學訓」を翻刻した資料を掲載している。それに続いて、杉浦先生による附釋がある。「この附釋は、朖著によって朖著を解することを目標とし」、「釋語は、朖著から援引することをそのたてまえとし」ている。朖著である「論語参解」「大学参解」「雅語訳解」などから、「経文の訓讀ならびに朖の解釋などを掲出」してある。版本には離屋學訓に続いて答客問が掲載されている。本書では杉浦先生自筆の本文と読み下し文が収録されている。
二では、杉浦先生の鈴木朖とその學問に対する強い思いが述べられている。時にはユーモア溢れる表現もあり、いわばこの間まで生きていた「爺様」を偲んで、その回顧録と言って良いかもしれない。
論語・學而第一、子夏のことば
賢ヲ賢トシ色ヲ易(あなど)リ、父母ニ事(つか)ヘテ能(よく)其(その)力(ちから)ヲ竭シ、君ニ事ヘテ能(よく)其(その)身(み)を致(いたし)、朋友與(と)交(まじはる)ニ、言(いひ)テ信有ラバ、未(いまだ)學(まなば)ズト曰(いふと)雖(いへども)、吾ハ必(かならず)之(これ)ヲ學(まなび)タリト謂(いは)ン矣。(朖の訓讀による。)
本書の背文字「鈴木朖」は、この落款からとった。
離屋學訓(影印)
一 學問ノ主意
二 四教四科ノ名義
三 四科ヲ二ツヅゝ一對ニスル事
四 四科ヲ取摠タル論
五 四科スベテ相持ナル事
六 四科ノ教ニテ徳ヲ成シ材ヲ達スル品ゝノ事
七 文學ノ大意
八 徳行ノ學大意
九 政事ノ學大意
十 言語ノ學大意
坿離屋學訓附釋
答客問 坿跋
鈴木朖
關雎
“戲”中の“眞”
解きがたい“ちゑの輪” -朖と漢學-
林杏庵に贈る詩 幷 序 考
題某童子画
漢學者としての鈴木朖
二色ノ辨 -虎と朖-
「文莫」ということ
離屋讀書説 -書誌・論説-
論語の述而篇に、孔子の發言として、「用之則行、舎之則行」とある。この語に朖門の子勉は注して、「明君ニアヒテ世ニ用ヒラルレバ、學ビタル道ヲ其世ニ行ヒ、モシ時ニアハズ、用ヒラレザルトキハ、人ヲ教ヘ、書ヲ著ハシナドシテ、其ヲ後世に傳フルナリ」という。これはまぎれもなく朖門獨特の、〝處世哲學〟による一つの理解を示したものといえよう。朖は、事實、この言葉どおりに履行した。履行は、しかし、天命によるもの、時俗の語で「仕合セ」、とすべて觀ずることにおいて、であった。かくいうことはいとも易しいが、いざ行うとなると全く「難きかな恆あること」と投げだしたくもなること、である。(後略)
昭和五十四年四月二十九日 杉浦豐治 識す