鈴木朖 離屋集初編

離屋集初編

鈴木朖 離屋集初編

平成22年12月1日 印刷
平成22年12月10日 発行
編集発行 鈴木朖学会

鈴木朖の『離屋集初編』の後刷一冊本の影印と、それに対する訳注とを収めた。呉銭泳による序に続き、朖自身による自序、堀田中倫による序言となる。尚志論を始め四十七編が収められている。訳は鵜飼尚代先生が担当された。
註釈は鵜飼先生が懇切丁寧を極めたものとなっている。多種多様な文章(漢文が主)は広い分野に渡り、朖の多才さを物語っている。

凡例

一、本書は鈴木朖の『離屋集初編』の後刷一冊本(冒頭に天保六年の清人銭泳の即題とそれに対する朖の序を附したもの)の影印と、それに対する訳注とを収めた。

二、『離屋集初編』には文政十一年堀田中倫の序を附した初刷本があり、後刷本とは本文に於いて若干の語句の相違がある。又各篇の文章は早く「離屋文稿」や「離屋文抄」などに書かれたものもあり、それらの本文との間にも相違がある。ここではそれらにはふれず、専ら後刷本によった。後刷本は著者によって訂正、検討が加えられているからである。それらのことについては『鈴木朖 百三十年記念』に於いて、市橋鐸氏の解説がある。

 

三、訳注の訳文は、本文に施されている訓点に従ってなした。この訓点は鈴木朖自身が加えたものか、又は板下を書いた門人丹羽勗が加えたものか、いずれにしても朖の訓みを最もよく伝えたものと考えられるからである。尚、訳文は歴史的仮名遣いによった。

四、注は語句の解釈と出典をあげたが、各篇によって精粗の差があり、出典については調査不十分なものが残っている。それらについては今後の補訂に俟ちたいと思う。尚、『論語』については鈴木朖の『論語参解』によった。又訳注の最後に各篇の原稿の成立時期の推定されるものを示す一覧表を付した。

五、この訳注は鵜飼尚代氏が担当した。

目次

                本文  訳注
読離屋集初編、即題其上、并序   3   157
自序               5   160
『離屋集』序           7   162
序録               9   163
尚志論             11   164
答客問             19   174
老子説             29   187
伯夷説             36   193
送本居先生序          41   198
馭戎慨言序           45   201
好理辨             47   204
二色弁             49   206
読職方外紀           51   208
書屏風応茶人需         55   212
慕凝齋説            56   214
恭斎説             58   217
修貴斎説            62   221
姪巽修字時敏説         66   226
不求堂説 為起驛瘍醫八木某   66   227
春風軒説            68   230
思永堂説            70   233
松軒説             72   235
千村氏別業記          74   238

                本文  訳注
答問録跋            78   242
食味真訣            79   243
天道論             82   247
勧子勉売字説          93   257
達情説             95   261
答子勉論医薬書         96   262
送丹羽子勉序         100   266
内職解            106   272
韓柳優劣辯          110   275
自叙歌并序          113   279
送関屋致鶴序         117   284
論孟子三則          120   289
読復讐論           126   295
続紀詔詞解序 代人作     128   298
跋大疑録           130   300
言志             131   302
贈若山叔亮言         132   303
贈某子言           133   305
題某童子画          137   308
論語釈義一則         138   309
楠正成訓子図解        140   312
題稗史            142   314
書天保卒章跋         142   315
題伯兄寿歌後 壬午      143   317
答問一則 論漢高祖      144   318
徳行五類図説         147   321
紀猴忠其主事         151   326
紀事一則 代兄作       152   328
『離屋集初編』原稿成立時期        330

讀離屋集初編即題其上 并 序 呉銭泳

鈴木朖 自序

堀田中倫 序言

離屋集初編 本文(例)

尚志論

尚志論

離屋集初編 訳注(例)

尚志論(志を尚くするの論) 訳

尚志論 注

後記 尾崎知光

 鈴木朖は国語学史上有名であるが、それは彼が四十歳のころに著した『活語断続譜』『言語四種論』『雅語音声考』によってである。これらの業績は、学史上極めてすぐれたものであることは全く異論はないが、彼の学問全体を見渡し、七十四年の生涯を総括するとき、彼の本領は一体何であるか。

 彼は少年の時以来漢学に秀で、その学力は並々の漢学者を遥かに超えるものがあった。しかもその漢学は当時の学者と異なり、その学問の根底には、独自の思想があって、それが彼の学問の中核をなしている。それは何かといえば、本居宣長流の国学精神である。寛政四年、二十九歳で宣長に入門してからは特に強固となり一生涯変らなかったが、それ以前、天明八年、二十五歳にして成った「答客問」に既にそれは見えていて、それあってこそ宣長への私淑が日増しに強くなったのである。彼の語学も、漢学も、古典古語の研究もすべてそこから形を顕わし結実したものと見るべきである。

 然らば彼の主著は何かと問われるならば、私は『離屋学訓』を第一に推す。これは彼の学問体系を理論的に説述したもので、前記の「答客問」を成熟完成させたものである。その名称からみた「学びの訓」という如き、初心者向けの啓蒙書とは異なる、極めて高度な、和漢を総合した学問論である。これを精読することなくしては、彼の学問を語ることができない。更にもう一つの著『離屋集初編』がある。これはその思想、信条を具体的に示し、彼を知る上で、まことに格好の書である。そこには中国哲学、思想に対する独自の見解が述べられていると共に、随筆的に日常の学問生活や交友、主張などが率直に語られていて、貴重である。しかもその諸篇は多く壮年期に書かれたもので、まさに前記『離屋学訓』の内容と相応ずるのである。

 然るにこの書は最後の一篇を除き、すべて漢文で記されているため、後来の研究者から敬遠されてきた。かつて鈴木朖学会で活躍された杉浦豊治氏はこれに注目し、その一部を訳解されたが早く世を去られて、既に久しい。鈴木朖研究にはこれは是非とも緊要のことである。学会創設以来私の念頭を離れぬことであるが、自ら門外漢で、無智無能、なすすべがなかった。

 このたび、兼ねてからこの業を慫慂し、懇請してきた名古屋外国語大学の鵜飼尚代氏によって、全部の訳注が完成した。氏は大阪大学で中国哲学を学ばれ、当地に来られて杉浦氏の指導をうけられ、鈴木朖の漢学についても多くの研究を発表された篤学の士である。せめて訳文のみでもと期待していたが、詳細な注まで加えられた。この氏の労に報いるため、私も敢えて無学を顧みず、訳文と注との若干の補正、補足を提起し、相応の協力をなした。

 もとより本書の訳注は容易ならぬ難事であり、著者鈴木朖の学識を熟知する人にしてはじめて能くなし得るもので、それが可能な人は世に稀れであろう。今回の訳注はあくまで試訳、試注であり、氏の研究の第一歩であって、未だ至らざるところ、不備なるところのあるのは、避けがたいことであろう。これは未開の地に鍬を入れる者には当然のことである。学問研究は最初から完璧を求めることは誰しも不可能であり、その未完の業績をうけ、それを拠り所として後続の者は前進することができるのである。かかる意味において開拓者の功績はまことに大きい。私はみずからがなし得なかった宿題が氏の苦心、努力によって完成したことを心から喜び、謝意を表するものである。

                                  尾崎知光

平成二十二年 初夏

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