本誌の名「文莫」の文字は、これを鈴木朖の筆なる扁額からとって、縦に置きかえたものである。この語は、『論語』述而篇の、「文莫吾猶人也」とある句中の「文莫」の二字を連語として解したことによるもので、その意味は、朖の著『論語参解』によれば、「黽勉ト同音ニテ、同シ詞ナリ、学問脩行ニ出精スル事也」という。あるいは彼の座右の銘ではなかったかと思われる。
目次
一、鈴木朖の新資料について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大久保 正
二、『道丸随筆』と『道万呂随筆に對ていふ』(翻刻)・・・・・・・・尾崎 知光
三、所語・有語・令語の論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・渡辺 英二
─『詞つかひ』の活用体系
四、鈴木朗の借書簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・水野 清
一、ここに管見に触れた朖に関する新資料の二、三を紹介し、朖の研究が脚光を浴び来たった国語学の体系的業績のみならず、他の方面に関してもいっそう精細に研究され、その国語学を導いた朖の学問の全貌に、その根基から更に照明が加えられて行くための研究─鶴舞図書館旧蔵の鈴木朖の遺書が悉く戦災により焼失した今日、多くの困雑を伴うこの方面の研究─に、いささかなりとも資料的役割の一端を果たし得るならばと念願する次第である。
二、第一に紹介したいと思うのは、静嘉堂文庫所蔵の松井簡治博士旧蔵『紀記歌詞略解』である。
内容は記紀歌謡の語句約一四〇二項をいろは別に提出し、諸説を参照して簡単な注解を加えて辞書的に編成したもので、その体裁は文政四年に刊行された朖の『雅語訳解』と近似する。
三、第二は朖の著述ではないが、朖の『古事記』についての説が散見するものとして、朖の門人茜部相嘉の『古事記伝補遺』を紹介しておきたい。
『道丸随筆』とは、田中道麿が筆のまにまに書いて誰かに贈ったいくつかの短い考証の一遍のことである。
内容は十九条の短考からなるが、その中で
一、おかしとをかしの別。
二、「がり」の宣長説。
三、美濃国の俗の田植。
四、トコロヅラの説。
五、大王のテシの訓。
など、関連の記事があり、これらが成立推定の手がかりとはなるが、結局、安永末(安永八年以後)から天明初めの間といふ以上に、明確な極め手がない。
一、はじめに
二、活用表
1、活用表
2、活用形
三、所語、有語、令語
1、所語、有語、令語
2、所語・有語・令語の設定
(1)『てにをは紐鏡』の分類
(2)『紐鏡』から『詞つかひ』へ
(3)『紐鏡』の所・有・令
3、常昭の処理
四、所語と令語
1、所語・令語と自・他
2、所語・令語と本語
五、活用表と所語・有語・令語
1、動詞の命令形
2、派生形の所語、有語、令語
3、単純形の所語、令語
六、朖と春庭
(一)鈴木朖(『活語断続譜』と『言語四種論』)
(二)本居春庭
1、詞の八衢
2、詞の通路
七、おわりに
書誌的なこと・年月記入のこと
朗の江戸詰・借書簿の「解釈」
借書簿・年月一覧表
別表Ⅰ 鈴木朗・親類年表
別表Ⅱ 柴田竜渓三代年表
借書簿人名索引